【孤独や死と真剣に向き合うこと】
『僕はなぜ小屋で暮らすようになったか 生と死と哲学を巡って』高村友也・著
年間ではスポーツやランニング本よりもビジネス書を読む機会の方が圧倒的に多いのですが、本日は異色の一冊をご紹介したいと思います。
アマゾンの内容紹介から一部引用。
雑木林に小屋を建て、河川敷にテントを張って暮らす著者が、「現在の生活に辿り着くまで」を語る。通底するテーマは「哲学」や「死生観」。幼い頃に「自分の死」のイメージに思い至ってより、「生きていること」の不思議さや儚さに思い巡らせてきた著者が、思考の世界と現実的な生活との折り合いをつけてゆく試行錯誤の記録。大正解か、それとも大間違いか、二つに一つの異色のライフスタイル。
著者は東京大学哲学科卒業し、その後慶應義塾大学大学院で哲学博士課程を取得退学。就職せずに、山梨の雑木林に土地を購入し、小屋を建てて生活。その後、神奈川の河川敷に土地を購入して、テント生活をスタートします。
なぜそうした生活に至ったのか?その理由や目的を綴った、著者の回顧録的な一冊なっています。
毎日誰とも会わないし、誰とも話さない生活。
「注目されたくないがために河川敷暮らしを始めたのに、他人と違うことをしているという点でかえって注目されてしまった。」こうしたことは住んでみてはじめてわかることで、非常に興味深い話にく感じられました。
「何も作らないから何も壊れない。作るから壊れるのだ。 」
いくつか本書の中身をご紹介します。
▼ 本書より
土地を買ったのは、まさに住むためである。住むために最も基本的なことは、雨のかからない場所で、水平になって、暖かく、時間を気にせず眠れることである。
たった十万円で一生住める「家」が、しかも神奈川のそこそこ便利な場所に手に入ったと考えれば、悪い気はしない。
この土地には基本的には何もない。何も作らないから何も壊れない。作るから壊れるのだ。
何もないのに「家」と呼ぶのは、一般的な感覚からすれば語弊があるかもしれない。しかし、ここで寝て起きて、ここでご飯を食べて、ここに帰って来るのだから、やはり「家」だろう。
「ちょっとごめんよ」は絶妙なニュアンスである。僕が所有者であることは当然認めていない。しかしながら、占有という原始的な所有形態は認めているのである。だから「ちょっとごめんよ」なのである。
生活は、特に楽しいということはない。だからと言って、寂しいとかつまらないとかいうわけでもない。不便もそれほど辛くない。感動するようなこともない。
ここには何もない。人とのかかわりもほとんどない。生活はすべて自己完結的に回るようになっている。毎日誰とも会わないし、誰とも話さない。
生まれたらもう死んでしまう。人生は一瞬だった。
一般的な日本の暮らしでは、いやおそらく世界中どこでも、「一人でいたいから一人でいる」などということは許されないのだろう。今の生活はその不可能を可能にしてくれる。
▲ ここまで
著者は大学から大学院まで進学しているのですが、親には一切相談もせず自分で決めたことなのか。就職しない息子のことを両親はどう感じているのか。両親に関する話が一切出てこないのには気になりましたが、そうした点も含めて知りたかったです。
人間は歳を重ねてくれば、誰かと対立することも減り、ある意味で「自由」へと向かっていると僕は考えているのですが、20代という若き年齢で早くも、著者なりの「自由」を求めて就職せず、テント生活という道を選択しました。
今後の行く末がどうなるのか、気になります。
最近「孤独死」といった言葉がメディアで取り上げられますが、人はどんな時に孤独を感じるのか。孤独の多様性についても考えさせられる、きっかけになりました。
「孤独」や「死生観」といったテーマにご関心のある方は、ぜひチェックしてみてください。
【孤独や死と真剣に向き合うこと】
『僕はなぜ小屋で暮らすようになったか 生と死と哲学を巡って』高村友也・著
目次
第一章 無縁、無用、何もない家
第二章 市の観念、人生、私的体験
第三章 愛、信頼、自由
第四章 不純さ、ホンモノ病、羞恥心
第五章 喪失、哲学、心理
第六章 人格の二重性、過去との断絶、憎悪
第七章 自分自身であること
第八章 孤独、私的生きにくさ、自我
管理人:大阪府生まれ。トレイルランナーズ大阪代表、米国UESCA認定ウルトラランニングコーチ。2012年に起業、日本では数少ないマラソンとトレイルランニングの両面を指導できるランニングコーチ、マラソン作家。指導歴12年で、初心者にもわかりやすい指導と表現で定評がある。
自身も現役のランナーで過去15年間で100大会以上に出場をし、ランニングを通じて日本中・世界中を飛び回るという「夢」を実現し、28か国30地域のレースに出場。
2012年から『はじめてのトレイルラン』教室を開講し、1万人超が体験する人気に。山でのマナーや安全な走り方の啓蒙活動にも注力し、グループで走る楽しさを伝え続けている。2024年10月にAmazon(アマゾン)より電子書籍『極寒!はじめての北極マラソン』を初出版。