【NHKで大反響!走って、村を救え!】
『小さな村のウルトラランナー重見高好』大川卓弥・著
「人口600人余り、過疎化に悩む長野県の売木村(うるぎむら)に一人のアスリートが立ち上がった。村をPRしながら走り、ウルトラマラソンで世界一を目指す。」
トレイルランナーズ大阪の安藤大です。
本日の一冊は、観光大使として「村専属のランナー」となった異色のランナー、重見高好さんに密着したノンフィクション。紆余曲折を経て妻子のあるニートランナーとなり、標高850m、人口600人の長野県売木村で単身合宿を行なっていた時に売木村の村長より、売木村地域おこし協力隊にスカウトされる。任期は三年。「先のことはいいです。まず、三年間、どれだけ成績を残せるかが勝負ですから。」
NHKのドキュメンタリー番組「応援ドキュメント 明日はどっちだ」(2013年4月~2015年3月)の番組で放映された内容に、時間の制約上カットしたシーンや追加取材で得られたエピソードを交えながら、”村専属のランナー”重見高好選手の奮闘の軌跡をまとめたもの。
「激走!日本アルプス大縦断」DVDがそうでしたが、映像でしか伝えることのできない臨場感もありますが、活字だからこそ伝わってくる臨場感もあります。(激走~のときは映像よりも、書籍の方が選手の苦闘や様子がにありありとイメージできて、よかったです。)
サポートしてくれる協賛企業を募って、海外レースにチャレンジしたランナーの話はこれまでにもありますが、村の村長から依頼を受けて、「村専属のランナー」として、観光大使となったランナーの話は初めて、耳にしました。そんなエピソードから「街興しの奮闘話」と気軽な気持ちで読んだところ、舞台はマラソンよりも距離の長いウルトラマラソン、重い、暗い、痛々しいエピソードもたくさんあり、正直面食らいました。
なぜ走ることが村のPRにつながるのか?
「今日も太ももが肉離れですね。かかとも痛くて、もう、体ボロボロですよ。」
なぜ、そこまでして走るのか?
過酷なレースに人生を賭ける男と、過疎の村の再生を願う男の情熱。
・地域おこし協力隊員とは?
2009年にスタートした、国の地域活性化事業の一つ。地方自治体が国の補助金をもとに、都市部の若い人材を地域社会の担い手として受け入れ、地域おこし活動の支援や農林漁業の応援、住民の生活支援などに従事してもらう。そして、合わせて彼らの定住・定着を図りながら、地域活性化につながえるのが狙い。任期は一年以上、最長三年。
・走る村うるぎプロジェクトとは?
村を、ランニングに適した練習場所として全国に発信し、個人、団体を問わず、大勢のランナーに呼びかけ、練習や合宿を誘致する。これによって観光以外の新たな客層を掘り起こし、人的にも経済的にも、村に活気を与えようという大きな挑戦だ。
本書を読むことで「ウルトラマラソンなんてとんでもない」という方はチャレンジする人の心境が見えてき、これからウルトラマラソンにエントリーしているという人は、自分のチャレンジする理由が見えてくるかもしれません。
個人的には重見高好選手よりも、「過酷なレースに出る夫のことをいつも心配している反面、走っている夫が一番好きなんです」と夫を献身的に支え続ける奥さんに、「奥さんから見た重見高好」を聞いてみたくなりました。24時間走に奥さんも一緒に不眠不休でサポート。本書では家族のエピソードは少なめですが、そうした家族愛も感じました。
「Born to Run」に「マラソン中毒者」ランニング関係のノンフィクションがお好きな方はもちろん、ウルトラマラソンランナーの方はぜひチェックしておいてください。
『小さな村のウルトラランナー重見高好』大川卓弥・著
◆本著より
日本のウルトラマラソンの競技人口は、約3万人と言われている。
全国各地で大小合わせて、120以上のウルトラマラソンの大会が開かれている。
「今日も太ももが肉離れですね。かかとも痛くて、もう、体ボロボロですよ」ウルトラマラソンで最も大事なのは、痛みに耐えることだという。
実は、重見にはウルトラマラソンを走って村をPRするだけではなく、もう一つ大切な任務がある。高地トレーニングに最適な場所として、売木村に多くのランナーを呼び込むことだ。
ランナーが村に来ると、必ずその日にスピーカーでランナーの来訪が村中に放送される。走っているランナーを見かけたら声援を送ってくださいと、村民にお願いするのだ。
実は、重見は売木村の出身ではない。愛知県から単身赴任で来ている。妻と子どももいる。
一口に長距離といっても、ランナーには適性がある。20キロまではずば抜けた速さで走る選手が、30キロを超えると急に失速したり、逆に駅伝てまは芽が出なかったランナーが、マラソンで目の覚めるような快走を見せることがある。
腰痛、肉離れ、踵の痛み。長年走り続けて、もう体はボロボロになっていた。春先にはギックリ腰になり、数ヶ月経ってもまだ、その痛みが取れていなかった。重見は、サロマ湖100kmウルトラマラソンを三位でゴールした。足は血だらけ。ユニフォームとの摩擦からか、脇からも血がでていた。ゴールしてすぐに倒れ込み、車いすに運ばれた。話すこともできない。食事も喉を通らない。右足のくるぶしを疲労骨折していた。
走ると自分に責任が持てる。
ウルトラマラソンは、自分対自分になってくる。レースも、自分で決められるわけですし、体が疲れたら休めばいいし、練習も自分だけで行う。誰かに言われてやるものではない。だからこそ、責任を持ってやらなければならない。責任感が違いますね。新しい責任感ですよね。全部自分で尻をふくわけです。自分で決めて、自分で尻をふけるっていうのは、最高だと思いますよ。
・重見高好選手プロフィール
1982年6月8日生まれ 愛知県岡崎市出身。ウルトラマラソン世界ランキング3位。中学生の頃から陸上選手として活躍し、実業団ランナーとして数々の大会で優勝、上位入賞を重ねる。フルマラソンで世界を目指すも、故障により夢半ばで挫折。その後世界と対等に戦えるステージとして、ウルトラマラソンに出会う。
妻子のあるニートランナーとして、標高850m、人口600人の長野県売木村で単身合宿を行なっていた時に、村長より、売木村地域おこし協力隊にスカウトされる。「うるぎ村」のランニングユニフォームを着て全国各地の大会に出場し、売木村のPRと自身の自己記録更新。現在は世界選手権を目指して日々トレーニングに励んみ、夏のスポーツ合宿誘致では、売木村に300人近くを誘致して村に貢献している。
<自己ベストタイム>
ハーフマラソン 1:03:42(05.3.13実業団ハーフ)
フルマラソン 2.18.31(09.3.1びわ湖毎日マラソン)
ウルトラマラソン 6.41.44(第28回サロマ湖100km)
神宮外苑24時間走チャレンジ 269km
<主なレース成績> 2012 サロマ湖100kmウルトラマラソン 3位 2012 秋田内陸リゾートカップ100kmチャレンジマラソン 2位 2013 伊豆大島ウルトラランニング58KM 1位 2013 サロマ湖100kmウルトラマラソン 2位 2013 白山・白川郷100kmウルトラマラソン 1位 2013 神宮外苑24時間チャレンジ 1位(国内最高記録・世界ランキング3位)
2014 宮古島100kmワイドマラソン 1位
2014 サロマ湖100kmウルトラマラソン 6位
『小さな村のウルトラランナー重見高好』大川卓弥・著
管理人:大阪府生まれ。トレイルランナーズ大阪代表、米国UESCA認定ウルトラランニングコーチ。2012年に起業、日本では数少ないマラソンとトレイルランニングの両面を指導できるランニングコーチ、マラソン作家。指導歴12年で、初心者にもわかりやすい指導と表現で定評がある。
自身も現役のランナーで過去15年間で100大会以上に出場をし、ランニングを通じて日本中・世界中を飛び回るという「夢」を実現し、28か国30地域のレースに出場。
2012年から『はじめてのトレイルラン』教室を開講し、1万人超が体験する人気に。山でのマナーや安全な走り方の啓蒙活動にも注力し、グループで走る楽しさを伝え続けている。2024年10月にAmazon(アマゾン)より電子書籍『極寒!はじめての北極マラソン』を初出版。